先日、特段意図無くスマートフォンをスクロールしていたところ、作家の西村賢太さんの死亡記事(といっても、亡くなったのは2年も前ですが・・・)が流れてきて、改めて芥川賞受賞作「苦役列車」を読みましたので、それに関する記事を残します。なお、管理人が読むのは2回目です。
(新潮社の公式HP試し読みはこちら

〈西村賢太さんについて〉

 西村賢太さんは、恵まれたとは言えない生い立ちのなかで、小説執筆だけに命を捧げたといっても過言で無いほどの生涯を生きたひとでした。

 最終学歴は中学卒業。23歳で藤澤清造さんの小説に出会うまでは(出会ってからも・・?)日雇いのアルバイトでその日暮らしの生計を営みました。29歳で留置場に入った時から、藤澤さんに強く共鳴するようになり、その影響を生涯にわたって受け続けたようです。

 小説を書く以外はアルコールと女性にほぼ全ての情熱(?)を費やし、54歳という若さで心疾患のため亡くなりました。タクシーで移動中の出来事だったと言われていますので、急性の発作的な要因と思われます。

 不摂生が祟ったのでしょうか。太く短い、豪快な人生だったと言えそうです。

〈「苦役列車」について〉

 2011年芥川賞受賞の本作は、ご自身のそれまでの人生(中学卒業後の、日銭で生計を立てる不安定な時期)を書いたものと言われています。主な登場人物は3名(本人、日下部、美奈子)のみ。

 古く狭いアパートの一室で暮らし、港湾での日雇いで日銭を稼ぎ、少しでもお金が余れば酒と風俗店で消費する、(失礼な言い方をすれば)不安定で非建設的なご自身の生活と、その中で生い立ちの異なる同世代の男女に対する嫉妬や、自身の不甲斐なさへの怒り、将来が見えないことに対する漠然とした焦り、など非常に「ニンゲン臭さ」が漂う文章が綴られています。

 管理人は西村賢太さんと生い立ちは異なりますが、「自分がもし本人だったら」と想像してみると、何故か容易に感情移入してしまう不思議な文章です。きっと、人間誰しが持っている基礎的な悪い感情をストレートにぶつけているからだと思います。

〈太く短い生き方〉

 ご本人が望んだかどうかは分かりませんが、太く短い という言葉がピッタリではないでしょうか。ひたすらにニンゲン臭く、命がつきるまで小説を書き続けた。プラスのエネルギーもマイナスのエネルギーも全て小説にぶつけて、この世を去ってしまいました。

 スマートフォンに流れてきた記事には、「きっと本人が望んだ生涯だった」「きっと満足しているだろう」「彼にしか出来ない」と友人や関係者が語り合っている様子が書いてありました。私は一切の面識がありませんが、なんとなくそう感じます。

〈なんか、どこかで聞いたような・・・〉

 そんな西村賢太さんの太く短い生き方ですが、管理人はどこかで似た話を聞いたような気がしていました。それがようやく思い当たりました。

 それが登山家の森田勝(もりたまさる)さんです(ウィキペディアはこちら)。
・幼い頃に両親を亡くし、恵まれた境遇では無かったこと
・仕事は転々とし、不安定な生活だったこと
・同世代に長谷川恒男さんというスーパースター(森田さんも同じくらいのスーパースターですが)がおり、彼の成功に嫉妬心があったのではないかと推測されること
 等から、管理人は森田勝さんと西村賢太さんとが重なるように感じたのだと思います。

 お二人とも、管理人には真似できないカッコイイ生き方です。熱量が違うと感じますが、熱量のもとはやっぱり「怒り」とか「嫉妬」とか、マイナスの感情から生まれる熱量は、時として前向きな感情から生まれる熱量を凌駕するのでしょうね。

〈まとめ〉

 とりとめの無い感想になってしまいましたが、陰鬱とした小説に触れたい時にはオススメの作品ですし、西村賢太さんご自身の人生についても、とても惹かれるものがあります。今の管理人にはピッタリだなぁ と読みながら思っていました。

最後までご覧いただきありがとうございました。ではまた。

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